はじめまして、桃子です。

バイブコレクターという肩書を、勝手に作って、勝手に付けています。私がバイブレーターをはじめとするラブグッズを収集しはじめて、12年超が経ちます。なんの気なしにはじめた趣味ですので、こんなに長くつづけることになるとは毛頭思っていませんでした。

新作のバイブをチェックし、入手し、試して、記事やSNSで発信する。その繰り返しといってしまえばそれまでなのですが、飽きずにつづけてこられたのは、次から次へと新しいグッズが発売されるから。というだけでなく、それらが絶え間なく変化し、進化していく様子から片時も目を離せないがゆえです。

多様性ーー最近いたるところで耳にする言葉です。ラブグッズの世界も、私がコレクションをはじめたころから比べるとずいぶん多様になりました。

まず、当時は海外からの輸入グッズはまだ数えるほどありませんでした。いまでも人気のスウェーデン「LELO」や、ドイツ「FunFactory」くらいだったと記憶しています。それが徐々に増えはじめ、いまや世界中のグッズが私たちにとって身近な存在となりました。

欧米のグッズには、まだ日本には根付いていなかった「女性の感性に添ったバイブ」が多く、それはそれは新鮮でした。その影響を受けて、日本のグッズも徐々に変わってきました。女性の感性や身体感覚といったものに、目が向けられるようになりはじめたのです。

ただ、グッズだけが進化してもしょうがない。私はそう思っているところがあります。使う側である女性もまた、少しずつ変化してきた……むしろこちらのほうが大事なのではないかという考えです。

私は当初、ブログという形でバイブレビューを発信していました。コメント欄に書き込んでくれるのは男性が多く(セクハラ的なコメントが少なかったのは幸いです)、女性はたいていダイレクトメッセージで感想や質問を送ってきてくれました。たとえオンラインでも、表立って話すのは憚られる空気が確実にありました。

まして「バイブに関心があります!」と公言する女性はいない、そう思っていました。私は2011年に著書が出版されたのを機に、グッズのメーカーやショップとつながりができ、そこで少なくない女性が働いていることを知りました。みなさん、「性を愉しむことを女性に伝えたい!」という明確なビジョンをもってお仕事に取り組まれている素敵な方ばかりでした。彼女たちの存在に、私自身も肯定されたように感じ、力を得ました。

さらに、SNSが盛んになると気軽に声をかけてくれる女性、質問してくれる女性が、私の目にもリアルに見えるようになりました。グッズについて話すハードルがずいぶん下がったと感じます。現在はそれに加え、SNSやYouTubeで発信する女性も増え、格段にオープンな雰囲気になっています。

グッズそのものの進化と女性の変化が、相互に作用し合いつつ車の両輪となって、グッズを普及させてきたのだと思います。年々、選択肢が広がり、ユーザーが増えていくのを肌身で感じてきました。

それを加速させたのが、「吸引系グッズ」の登場でしょう。クリトリスに振動刺激を与えながら吸い上げる……2016年ごろにドイツの「ウーマナイザー」が発表し、最初は驚きとともに迎えられましたが、またたく間に世界中で流行しました。

新規の切り口にはニュース性があり、私のところにも、これまであまりグッズを採り上げてこなかったメディアからも取材がありました。「はじめて使ったグッズは吸引系」という人も、いまはめずらしくないのかもしれません。それだけ訴求力があったため、いまはすっかり定番アイテムに。さらに細分化されているので、自分に合うものを探す作業も楽しいものです。

そして、2020年初頭あたりから盛んに「フェムテック」という言葉が聞かれるようになりました。「female + technology」の造語で、女性の課題をテクノロジーによって解消しようと開発されたアイテム、サービスのことを指します。

ラブグッズもここに含まれます。このジャンルでは「プレジャーグッズ」と呼ばれることも多いです。2019年に性の世界学会で「セクシャルプレジャー宣言」が出され、人には性的に気持ちよくなる、快感を得る権利があると謳われました。世界がどんどん変わっていってるのを感じます。

フェムテックという語が体現する世界では、エロティックな色合いが払拭され、クリーンなイメージがあります。それによって、これまで敬遠していた女性の手がグッズに伸びることもあるでしょう。

グッズというのは、手に取って、使ってみて、はじめてよさがわかるものだと思います。どんなに「これはすばらしいグッズだ」といわれても、自分の身体で受け止めないと本当のところはわかりません。

だからこそ、自分の感覚を大事にしてほしいと思います。「女性の感性に添って作られたグッズで、上質な快感を」というのがメインストリームになっている昨今、それでも「卑猥なグッズのほうが興奮する」という女性もいます。どっちも間違ってないんです、自分が思うのが正解。

女性のセルフプレジャーについても、この10年間で「当たり前」のこととして語られるようになりました。

それ以前は「男性のポルノ」として消費されたり、「さみしい女がするもの」とみなされたりしていました。私も男性誌の取材で「恋人がいなくてさみしいからバイブを使うんですよね」と質問されたことが何度もあります。恋人いるっつーの。それ以前に、パートナーとのセックスとセルフプレジャーはまったく別もので、それ自体のよろこびがあります。

とはいえ、「セルフプジャーっていうけど、私はするとむなしくなる」という女性もいるはずです。私はそんな想いも尊重したいです。そう思うこと自体は間違いじゃないし、きっとその人はほかに求める何かがあるのでしょう。私だって「あ~、なんかいまいちだなぁ」と思う夜、ありますもん。

ここ10年間で、セルフプレジャーに関してもグッズに関しても、情報量もアイテム数も格段に増えました。それはよろこばしいことである一方、流れてくるイメージに左右されるのではないか、という懸念がちょっぴりあります。そうしたイメージと自分自身とのあいだに距離を感じる人が出てくるんじゃないか、と。

「女性のセルフプレジャーはこういうもので、女性が好きなグッズはこういうもの」というのにとらわれず、あくまでも自分の感覚を優先して、愉しみを追求してください。